今年、サッカーのルールが変更されることになった。これまでも何度も改正されているゴールキーパー(以降、GK)に関するルー…
今年、サッカーのルールが変更されることになった。これまでも何度も改正されているゴールキーパー(以降、GK)に関するルールだが、新たなルールはサッカーという競技を、どのような方向へと導いていくのか? サッカージャーナリスト大住良之が「8秒ルール」を検証する!
■リード後は「起き上がらない」傾向も
大変なのは浦和レッズである。IFABは6月14日に開幕する「FIFAクラブワールドカップ2025」で新ルールが使われることを明らかにしているからだ。西川周作はプレーが遅いタイプのGKではないが、リードした後には、ボールをつかんだまま、なかなか起き上がらないという傾向も見られる。
大会前には公式戦で新ルールを経験することはできない(参加全クラブのGKが同じだが)ので、練習試合、あるいは練習の中でスムーズに味方にリリースするトレーニングを積むしかない。
さらに、世界のサッカーの中では長身選手が少ない部類に属する日本のチームは、相手のコーナーキックが増えるのは不利な状況となるので、GKのプレーはより慎重にならざるをえない。たとえば日本代表がオーストラリア代表と対戦するときに、このルールでコーナーキックを与えてしまったときの「ピンチ感」を想像してみてほしい。
ただ、「8秒ルール」が試合をスピードアップさせるのは間違いない。主審にかかる負荷が増えるという懸念はある。「カウントダウン」をいつ始め、どうカウントするか、しっかりとしたガイドラインも必要になる。しかし、「エンターテインメント」という面を考えれば、この新ルールは悪くはない。
■10秒15秒では「きかない」ゴールキック
ただ残念ながら、これによって「アクチュアル・プレーイングタイム」が増えるわけではない。「アクチュアル・プレーイングタイム」とは、大ざっぱに言えば、90分間プラス前後半のアディショナルタイムの合計試合時間から、ボールが周囲のラインを出てリスタートされるまでの時間と、ファウルなどで主審が笛を吹いてプレーを止めてからリスタートされるまでの時間を差し引いたものであり、GKのボールをキャッチしたまま寝そべっているような時間は、これまでも「アクチュアル・プレーイングタイム」に含まれているからだ。
一方で、近年のGKには、より大きな「時間の空費」がある。ゴールキックである。2018/19までのルールでは、ゴールキックはペナルティーエリアを出るまでインプレーにならなかったが、2019年の改正で「明らかに動いたとき」にインプレーになることになった。その結果、ペナルティーエリア内、ゴールエリアのすぐ外にディフェンダーが立ち、ゴールキックを受けて、そこからビルドアップするチームが増えた。
最近のJリーグの試合を見ていると、こんなシーンによく出くわす。GKがゴールエリアの角にボールを置くと、2人のセンターバックがゴールエリアの両外に立ち、ゴールキックを受ける形をとる。しかし、相手がそれにプレッシャーをかけようとペナルティーエリアのすぐ外で待ち構えていると、GKはしばらく様子を見て、蹴る方向を変える様子などを見せて相手をけん制した後、短くつなぐのをやめ、2人のセンターバックに上がれと指示するのである。
そしてセンターバックがペナルティーエリアから出てハーフラインぐらいまで上がっていくと、GKはおもむろにゴールラインまで下がり、そこから助走して大きなキックを送るのである。この間に何秒が空費されているだろうか。おそらく、10秒、15秒ではきかないだろう。
■尽きることのない「時間かせぎ」の手法
「浜の真砂は尽きるとも、世に盗人の種は尽きまじ」――安土桃山時代に跳梁した大盗賊・石川五右衛門の辞世と言われる歌だが、サッカーにおける「時間かせぎ」の手法も尽きることはない。リードしているチームはなりふり構わぬ時間かせぎに出るし、サポーターもそれを喜ぶ。「うまい時間の使い方ですね」と話す解説者も多い。
「8秒ルール」は効果を発揮するだろう。しかし、「時間かせぎ」はまだまだ撲滅などできない。サッカーをより楽しめるものにするのは、サッカーにかかわるすべての人の責務だと思うのだが、「勝つためには何でもする」という風潮が「常識」の今、それを「ルール改正」という大がかりな方法でしか止められないのは残念でならない。