プロ生活20年で通算17勝を挙げた上田桃子が、昨季限りでツアーから“撤退”した。日本の女子ゴルフ界で一時代を築いた38歳は、いま何を思い、過去を見つめ、どのような未来像を描いているのか。全2回の独占インタビューで迫った。(取材・構成/玉木…

プロ生活20年で通算17勝を挙げた上田桃子が、昨季限りでツアーから“撤退”した。日本の女子ゴルフ界で一時代を築いた38歳は、いま何を思い、過去を見つめ、どのような未来像を描いているのか。全2回の独占インタビューで迫った。(取材・構成/玉木充)
<前編>生涯のベストゲームとライバル、「熟成」に至らなかった後悔
苦しい時間を逃げずに向き合えた

優勝17回を数えながらも、“上田桃子”を振り返るとき、なぜかトロフィーを掲げる笑顔よりも惜敗したときの涙が思い浮かぶ。歓喜の輪が広がる18番グリーンを横目に取材に応じ、悔しさに声を震わせながら18ホールを総括する…そんな風景だ。
「人間は一番きついときに本当の部分を知ることができる。波に乗れているときは何をやってもうまくいくし、心も体も元気ですし。(一方で)出続けてても結果にならないときはきつい。そういうときにどう過ごすかがプロとして問われていたと思います。そこで自分自身に勝ち続けることができたのは必ず自信になります」
上田と同じく江連忠氏、辻村明志氏に師事した6歳下の山村彩恵からも多くを学んだ。長い間、ショットの不振に苦しみ予選落ちが続いても、愚直にクラブを握ってきた。
「先輩として悩みを解決してあげたいと思っていたけれどコーチでもなかったし、そこまでしてあげることができなかった。(山村)自身しか可能性を信じてあげられない状況で、逃げるどころか、より向かっていく熱量でした。私だったら無理だなとあきらめてしまう」
自身も国内メジャーに60回挑戦し、トップ10が26回、2位は4回を数えながらも最後まで頂点に届かなかった。最後の出場となった昨年9月「日本女子オープン」は30位に終わり、第一線から退く決断につながったという。「勝った瞬間よりも負けて苦しい時間を逃げずに向き合えたのは自分自身、誇りを持てました」と胸を張った。
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もしもJLPGAの会長になったら…

国内女子ツアーは今季37試合が組まれ、賞金総額は44億円を超える。日本女子プロゴルフ協会(JLPGA)が日本のゴルフ界発展の中心的な役割を担っているのは間違いない。
今後、協会との関わりについては「自分もワクワクしつつ、世の中に対してもワクワクを届けられるような。今までにない形を作るのが、ひとつの使命と思っている。新しく生み出せるものがあるのではないかなと、そっちのほうに関心がある。協会内に携わって改善していくのは先輩たちに任せようかな」とイメージを描く。
2011年から小林浩美会長が“長期政権”を担い、放映権の一括管理などの変革を起こし、海外ツアーと同じ土俵に立つべく経営計画を進めてきた。仮にしがらみもなく協会の会長になったとしたら、どんなことをやってみたいか?
「今、男子ツアーの試合数(25年はツアー最少に並ぶ24試合)が少なくなったりと問題になっています。私は男子プロ、ジャンボ(尾崎)さんとかがバンバン試合に出ているすごい男子ツアーを見てきました。ゴルフ界全体が盛り上がるのは、女子だけでなし得られるものじゃないと思っています。女子と男子で一緒のことをやるとか、全体が潤うことをやりたい」
例年12月には男子ツアー(JGTO)、女子ツアー(JLPGA)、シニアツアー(PGA)の代表選手による団体戦「3ツアーズ」も行われるが、まだまだ物足りない。
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自分で正解を見つける

昨年も26人の女子プロが誕生した。5度目の挑戦でプロテストに合格した六車日那乃は憧れの人に上田桃子の名前をあげた。もしも、新人プロを対象としたセミナーで話す機会を与えられたら…豊富な経験から何を話してくれるのだろうか。
「私の経験をもとに『こうです、こうです』と言うのはヒントになるとは思いますが、別にセミナーじゃなくても個別に直接聞いてきてほしい。全体に通して話をするとやはり“ホワッ”としてしまうので、本質的なことは伝えにくい。また、全員に当てはまることはほぼない。思考も人それぞれ違う」
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昨年のJLPGAアワードでは特別功労賞を受賞。同じく一線を退いたツアー21勝のイ・ボミ(韓国)や広報として尽力した故・諸岡誠彬さんら3人のみが手にした賞だ。女子プロゴルファーの“ロールモデル”として優勝や賞金以外の功績が認められた瞬間だった。
「自分自身で答えを探して見つけてきました。ほぼほぼ人から言われたことは答えじゃない。ヒントであって、答えは自分しか持ってない。興味があるなら、自分で動いて聞きに行く、盗む、見て学ぶというか。そういう正解の見つけ方をしてください…かな」
昭和、平成、令和と時代も移り、選手の思考も変わってきた。「なんとなくですが、今の子のほうがロングスパンで考えているかな。一喜一憂せず、今週ダメだったら来週という、どこかゆとりを持てるような考え方。私たちのときは生きるか、死ぬか、この一戦がイクサだ! みたいなイメージで戦っていました。それで時には余裕がなくなっていたりとか。オーバーワークになっちゃっていたり」
上田桃子が特別功労賞を受賞 やりたいことは「英語、料理、トレーニング」
これからのゴルフ界との関わり

昨年11月の「伊藤園レディス」で“撤退”会見を行った。ツアーから第一線は退いたものの、「プロになったときから一生プロゴルファーと思っていました」と“引退”は否定していた。
今後もゴルフと関わり続けていくつもりの中で、理想とする未来像がある。「ゴルフ界というコミュニティだけじゃなく、社会とゴルフがリンクした形を目指せると良い。ゴルフってたくさんルールがあったり、お金がかかったり、いろいろやるにあたっても難しいじゃないですか」
総務省によると、2023年の日本の総人口は1億2435万人と17年連続で減少しており、今後100年間で100年前の水準に戻っていくそうだ。
「社会的な問題とゴルフ界の問題といろいろ課題はたくさんあるけれど、人口も減っていくのを考えると今までのゴルフを知っている人たちじゃなくて、もっといろんな人に興味を持ってもらったり、やりやすい環境を作ったり。ゴルフに関心がある人が増えていかないと困ると思います」
今年1月、男子プロのタイガー・ウッズとロリー・マキロイ(北アイルランド)が発案し、米PGAツアーも支援するインドア型ゴルフの新リーグ「TGL」が開幕した。
「おもしろいと思います。やってみないとどういう人達がどういう興味があるかってわからないし、トップの人がああいう遊び心をもってゴルフを広めてくれる。普段のトーナメントは長いから見るのは大変だけど、こっちのほうがパッと見ることができます。いろいろとやってみないとわからない。新しいゴルフスタイルが生まれたらいいなと思っていて、そういうものは考えてはいます」と新鮮な気持ちで受け止めている。
「今までの既存のゴルフファンも大事にしつつ、新しい人たちに目を向けて、その役割を担えれば良いかな」。プロゴルファー上田桃子の第2章は始まったばかりだ。