阪神は2年連続のCS進出を確定させたが、一方で秋風の季節となった。片山雄哉捕手(30)が1日、来季の契約を結ばないことを通告された。スーツ姿で鳴尾浜を訪れると、報道陣の前でひと目をはばからず瞳を潤ませた。左右のほおに涙をこぼしながら、直後の…

阪神は2年連続のCS進出を確定させたが、一方で秋風の季節となった。片山雄哉捕手(30)が1日、来季の契約を結ばないことを通告された。スーツ姿で鳴尾浜を訪れると、報道陣の前でひと目をはばからず瞳を潤ませた。左右のほおに涙をこぼしながら、直後の取材に応じていた。

愛知・刈谷工(現刈谷工科)時代の最後の夏は、3回戦で敗退。至学館大学短期大学部を経て、15年に入団したBC・福井から24歳の18年、育成ドラフト1位で阪神入団。快速自慢かつ、強打の攻撃型捕手として、19年途中に支配下登録され、22年に1軍デビューを果たして2試合出場した。

忘れられない片山との約15分間の会話があった。今季2軍戦では捕手と一塁手で90試合に出場。210打数65安打2本塁打21打点で打率3割1分の成績を残した。今年5月に3割7分の月間打率をマークした直後、ウエートルームの1階の窓がガラっと開き、片山が顔をのぞかせた。

じっくり話すのはほぼ初めての状態だが、複数ポジションを任されながら毎日グラウンドへ向かう心境を尋ねると、こう返答した。「今、自分がプロにいるのは奇跡だよ」。

猛者が集うプロ野球の舞台で、さらに精鋭がそろう1軍の舞台と、その壁を超えようと奮闘する2軍選手。プロで戦う覚悟を、しっかり秘めていた。「1軍の選手たちは、一握り。ここぞの勝負の切り札が(裏で)そろっている。守備のスペシャリストがいて、代打の切り札がいて、守備固めがいて…。各ポジションに特化した選手が後ろでスタンバイしている。(レギュラーの選手は)自分の準備ができるけど、(レギュラーに満たない場合は)そこで周りのニーズに応えて、成功できるかが大事。例えるなら『変身しなきゃいけない』。自分本位ではいけない」。

その際、恐縮ながら複数ポジションを行う片山へ、筆者もプロ、アマ各球界へ日々、日替わりで取材活動に励んでいることを打ち明けた。「日によって異なるチームの必要な話題にきちんと食らいつくことが欠かせない」。そうこちらが話すと、こう言った。

「でも『お金を稼ぐ』ってそういうことで。自分がやりたくないこともやって、そうでもない時でも『はい』って。我慢しなきゃいけないこともたくさんある。でも、誰もやらないことをやるから、価値が出るしお金になる。簡単だけど、すごく嫌なこともある。僕らの世界は顕著だから、特別なものがないと重宝されないし、お金にも直結する」。窓越しにじっくり熱弁した言葉の数々には、力がみなぎった。

それから再び話ができたのは、戦力外通告を受けた当日。囲み取材を終えると「お世話になりました」と一礼。去り際に、「仕事論」を話してくれたお礼を伝えると、「僕でよければ」とほほ笑んだ。スマートで柔軟な片山らしく、切なくもすがすがしい、戦場の去り方だった。厳しいプロ野球界を6年間走り続けた胸に秘めていた、仕事への志。次の新天地でも、置かれた場所で咲く“仕事人”として一層、花を咲かせてほしい。【アマチュア野球担当=中島麗】