スポーツ取材の現場で、アスリートから「相手へのリスペクト」という言葉を聞く機会が増えた。熱戦が続くこの夏の甲子園で、それを体現する場面に出会った。 14日の2回戦で、智弁学園(奈良)は九回に1点を勝ち越し、2―1で健大高崎(群馬)の春夏連…

 スポーツ取材の現場で、アスリートから「相手へのリスペクト」という言葉を聞く機会が増えた。熱戦が続くこの夏の甲子園で、それを体現する場面に出会った。

 14日の2回戦で、智弁学園(奈良)は九回に1点を勝ち越し、2―1で健大高崎(群馬)の春夏連覇を阻んだ。

 智弁学園の多くの選手たちが喜びを爆発させて本塁付近に並ぼうとする中、捕手の山崎光留(ひかる)だけが違う動きをした。最後の打者が使ったバットを拾い、小走りで健大高崎ベンチに届けた。

 「相手は悔しくて、バットを取りにくるどころじゃないと思ったんです。いい試合をしてくれた健大高崎さんへのリスペクトというか、自然と、動きました」

 仲間と真っ先に喜び合いたいところで見せた、相手への思いやりだった。

 13日の青森山田―長野日大でも、印象的な場面があった。九回、長野日大のエース左腕・山田羽琉(はる)と、青森山田の7番打者・蝦名翔人とのやりとりだ。

 痛烈なライナーが、山田を襲った。左腕は一塁側にうまくよけながら好捕した。すると蝦名は、ヘルメットのつばに手を当てて謝るようなしぐさを見せ、山田は左手を挙げてそれに応えた。ほんの一瞬の、さわやかなやりとりだった。

 一つの白球を巡って競い合う者同士が見せる、勝負とは違った色合いの表情。それもまた、幾多の名勝負を生んできた甲子園の、もう一つの魅力だと思う。(松沢憲司)