<パリオリンピック(五輪):レスリング>◇10日(日本時間11日)◇女子62キロ級決勝◇シャンドマルス・アリーナ【パリ10日=阿部健吾】女子57キロ級の元木咲良(22=育英大助手)が決勝でイリーナ・コリアデンコ(ウクライナ)に12-1のテク…

<パリオリンピック(五輪):レスリング>◇10日(日本時間11日)◇女子62キロ級決勝◇シャンドマルス・アリーナ

【パリ10日=阿部健吾】女子57キロ級の元木咲良(22=育英大助手)が決勝でイリーナ・コリアデンコ(ウクライナ)に12-1のテクニカルスペリオリティー勝ちし、金メダルを獲得した。マイナス思考を武器に、00年シドニー五輪代表だった父康年さん(54)が果たせなかった親子2代の夢を成就させた。男子フリースタイル74キロ級の高谷大地(29=自衛隊)は銀メダルに輝いた。11日は男子フリー65キロ級決勝で清岡幸太郎(23=三恵海運)が金メダルを獲得。日本男子の金4個は68年メキシコ大会以来、56年ぶり。男女合わせて金7個は過去最多更新となった。

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信じて、足首を狙い続けた。「この技があるからここまで来られた。たくさんの人に教えてもらって高めてきた技。これで金メダルを取るって決めていた」。コツコツと磨き続けた片足へのローシングルのタックル。随一のタイミングで右足に食らい付き、最後は大差で思いを結実させた。

悩み抜いた結論だった。4月のアジア選手権で世界女王チニベコワに3連敗を喫した。「自信をなくしてしまった。病み期でした」。周囲にはタックル自粛を促す声もあったが、心は定まらない。ふと、開いたノートに答えはあった。

大学2年の夏に右膝靱帯(じんたい)を断裂し、マットを離れた。その時期の練習ノートに、4つの目標が書いてあった。「楽しみたい。攻撃的なレスリングができるようにしたい。全日本で勝ちたい。ローシングルで勝ちたい」。過酷なリハビリを終え、願いはかなっていた。「暗い自分でいるのは、その時の自分に失礼」と持ち直した。

「自信」は人生のテーマだ。記憶に残るのは、中3の全国大会。今大会の53キロ級金メダル、当時中1の藤波に負けた。「実力は自分の方が上でしたが、強いという自信がなくて。もう最後に怖くなってしまって、技が仕掛けられず、逆転負けしてしまって」。

マイナス思考は競技内外で悩みの種。ただ、大けがから復帰し、武器を磨き、パリへの切符をつかむ中で気付き始めた。「変わる必要はないって。欠点だって、抜け出したいと思ってたんですけど、逆に最近はそれもプラスに考えて」。自信があれば練習はしない。不安があるから研究する。「自分の1つの武器なのかな」と思い始めた。

聞けば競技を始めるきっかけをくれた父も一緒だった。康年さんは20歳で競技を始め、30歳で00年シドニー五輪に出場した。「ビデオマン」と呼ばれ、競技歴の差を埋めようとひたすら映像研究した。元木も同じだった。「お父さんと同じ。不器用なところは似たくなかったけど」と照れた。

「最後は自信がないことも自信にして臨む」。パリへと進む中だからこそ、そう思えた。「私のレスリング人生、そう簡単にうまくいかしてくれないなと思ったんですけど、金メダルを取るまでに必要な時間だったのかなって。無駄なことなんて1つもなかったなって思います」。いまの自分を好きになれた。

○…00年シドニー五輪9位の父康年さんは「いやぁ…、泣きましたけれど」と照れた。「娘もいずれは五輪選手に」と、3歳でレスリング教室に通わせた。上達が遅かったが、励まし続け、いつも支えた。「運動会で走ったり、授業参観で発表したり、それでもうれしいのに娘がその舞台で表彰されるんだから」。24年前に届かなかった場所へ立つ姿を目に焼き付けた。