7人制ラグビーの国内シリーズ「太陽生命女子セブンズ」(朝日新聞社後援)は今年、10回目の開催を迎えた。年を追うごとにレベルを上げ、ラグビー界での存在感が増してきた。 現役時代は選手として参加し、現在はピッチの外から関わる元日本代表の鈴木彩…
7人制ラグビーの国内シリーズ「太陽生命女子セブンズ」(朝日新聞社後援)は今年、10回目の開催を迎えた。年を追うごとにレベルを上げ、ラグビー界での存在感が増してきた。
現役時代は選手として参加し、現在はピッチの外から関わる元日本代表の鈴木彩香さん(34)に、このシリーズが持つ価値や将来性について語ってもらった。
■元日本代表・鈴木彩香さんが感じた大会の魅力
ラグビーを楽しみながら、仕事や学業などを両立させられる選手が増えてきました。
様々なバックグラウンドを持った選手たちが一緒に楕円(だえん)球を追いかける。それを可能にしたのも、このシリーズの大きな意義だと考えています。
私が高校生で日本代表に入ったころは、常に世界との戦いを意識していました。それは、日本国内のレベルがどうこうというわけではなく、そもそも戦う相手が海外にしかいませんでした。
今のような国内大会ができるなんて、当時は思いも寄りませんでした。
そのころの女子ラグビーは発展途上で、他競技からの転向組も日本代表に多くいました。今は競技人口も増え、身体能力が高い子が幼少期からラグビーに親しむ環境が増えました。
現役の晩年は一回り年下の選手たちとも競っていましたが、基本的な技術の高さには本当に驚かされました。今では、クラブチームからどんどん良い選手が出てきます。
このシリーズでの選手同士の競争が、日本代表強化にもつながっていると確信しています。
私はラグビーの本場・英国のプロチームに在籍したことがあります。英国はもちろん、世界を見渡しても、クラブチームが集まって年間4大会で総合優勝を争う「太陽生命女子セブンズ」のようなものは、どこにもありません。
日本でプレーしたがる世界レベルの選手がいるのもうなずけます。
たくさんのすばらしい面がある一方で、数年前から感じている課題もあります。もうそろそろ、会場での観戦を有料にしてもいいのではないかと。
本当に少額でもいいのです。エンジョイするだけで集まった試合なら無料でいいと思いますが、選手たちの多くは人生をかけて戦っています。見にきてくれる人たちに、どんな価値を提供できるのか。日本ラグビー協会だけではなく、女子ラグビー界全体で考えていくべきだと感じます。
彼女たちがラグビーにかける努力やひたむきさって本当に見ていてかっこいいな、すごく美しいな、と。現役を退き、見る側に回っても感動するし、元気や勇気をもらいます。ラグビーって、やっぱりいいなって、ワクワクするなって。
でも、そういうところも、もう少し発信した方がいいと思います。メディアが取り上げてくれないんだったら、自分たちで発信していかなくてはなりません。
人は結局、がんばっている人のストーリーがすごく好きだと思うのです。女子ラグビーには、単に競技力だけではない魅力を持った選手がたくさんいます。引退後、私自身がそれに気付かされました。
日本代表だけに、競技を続ける意義を見いださなくてもいい。ラグビーを通じ、女性が自分らしさを表現することができると思っています。
選手それぞれの目的が増えてきたのは、すごくいいこと。それも多様性の一つですから。このシリーズが、そんな彼女たちの生き方を後押ししてくれていると思っています。
すずき・あやか 1989年生まれ、横浜市出身。神奈川県立鶴見高校時代にラグビー女子の日本代表に初選出。15人制のワールドカップ(W杯)、7人制の五輪に出場。2022年のW杯を最後に現役を退き、女子ラグビーの競技普及などに取り組む。1児の母。
■年間総合優勝の行方は ながと、パールズ、東京山九の三つ巴
第1戦の北九州大会(4月6、7日、ミクニワールドスタジアム北九州)はラグビーが盛んな福岡県での初開催。決勝は、昨季の年間総合優勝・ながとブルーエンジェルス(山口)と、三重パールズの顔合わせとなった。
リードされて試合を折り返した前年王者は、後半早々に主将・藤崎春菜のトライで逆転。その後は2トライを重ね、24―17で制した。
パリ五輪に向けた7人制日本代表の活動により、主力5人がいないなかでの優勝。藤崎は「5人が抜けても強いというところを、今年は見せていきたい」と語った。昨年は全4大会を制し、これで5大会連続優勝に。
第2戦の熊谷大会(4月20、21日、埼玉・熊谷ラグビー場)は波乱の展開となった。ながとブルーエンジェルスが日体大(神奈川)との準々決勝で敗退。決勝は、その日体大を準決勝で破った三重パールズと、東京山九フェニックスがぶつかった。
先行された東京山九フェニックスは、主将の岡元涼葉ら3人が立て続けにトライ。三重パールズの反撃を振り切り、19―12で勝利した。
2022年の弘前大会以来の優勝に、岡元は「とにかくうれしい。よりレベルアップしたフェニックスで戦うことができた」と胸を張った。
第3戦の鈴鹿大会(5月5、6日、三重交通Gスポーツの杜鈴鹿サッカー・ラグビー場)では、ながとブルーエンジェルスが覇権を奪い返し、今季2度目の優勝を果たした。
決勝は第2戦を制した東京山九フェニックスが相手。立ち上がりに12点差をつけられる苦境に陥ったが、新加入の新野由里菜が躍動した。前半のうちに、鮮やかな突破から2連続トライを決めてチームを勢いづけると、後半にも1トライを追加。35―17で終了の笛を聞いた。
鈴鹿大会の最優秀選手(MVP)に選ばれた新野は「前回(第2戦)5位で、また一からチームを作り直した。自分のMVP以上に優勝したことがうれしい」とうなずいた。(松本龍三郎)