異色の”二刀流”牝馬は、「世代最強」と言われるエピカリス(※)不在の3歳ダート路線を制圧できるのか――。
※エピカリス(牡3歳/父ゴールドアリュール)。国内ダート戦は4戦4勝。海外重賞のUAEダービー(メイダン・ダート1900m)2着馬。6月の米国ベルモントSに出走予定だったが、右前脚の不安で出走取消。

 6月18日に行なわれるGIIIユニコーンS(東京・ダート1600m)で1番人気が予想されるのは、牝馬のリエノテソーロ(牝3歳/父スパイツタウン)。2歳時には、地方交流重賞のエーデルワイス賞(門別・ダート1200m)、全日本2歳優駿(川崎・ダート1600m)を、それぞれ圧勝した逸材だ。

 3歳になってからは芝のレースに舞台を移し、前走ではGINHKマイルC(5月7日/東京・芝1600m)に出走。中団から強烈な切れ味を披露し、2着と好走した。十分な実績を持ち、牡馬と伍してもヒケを取らないだけに、人気の中心になるのも頷ける。


NHKマイルC2着のリエノテソーロ

 では、はたしてこの人気に乗ってもいいものか? いくつかのファクターから検証してみたい。

 まず、このレースにおける牝馬の成績である。過去21回行なわれたうち、牝馬が勝利したのは2回のみ。2着も4回だけだ(勝ち馬降着による繰り上がり1回を含む)。レースの回数に対しての割合で言えば、やはり牡馬が優勢である。

 ただこれは、そもそも牝馬の出走頭数が少ないことにもよる。平均すると、およそ1年あたり約1.5頭しか出走していない。そう考えると、むしろ悪い数字ではない。

 また、過去に牝馬で好走した馬はいずれも、それまでに重賞ないしはオープン特別で結果を出している。その点、リエノテソーロもそれらと同等か、それ以上の実績を持つ。同馬にもチャンスは十分にあると言えるだろう。

 懸念があるとすれば、全日本2歳優駿のレベルか。2着となったシゲルコングがその後4戦して惨敗続きで、5着が最高という結果が気になるところ。だが、そもそもシゲルコングと接戦を演じたのではなく、コンマ6秒差の余裕しゃくしゃくで勝ったことを考えれば、そこまで不安視することもないだろう。

 かつて、全日本2歳優駿の勝ち馬でユニコーンSに出走した馬は5頭いる。そのうち、1番人気で全日本2歳優駿を制したアグネスデジタルとユートピアは、いずれもユニコーンSを快勝した。それもまた、リエノテソーロにとってはプラス材料となる。

 臨戦過程はどうか。芝でデビューして2連勝を飾ると、3戦目、4戦目はダート重賞を連勝した。年が明けて3歳になると、再び芝のレースに矛先を変えて、桜花賞トライアルのアネモネS(3月11日/中山・芝1600m)に出走(4着)。そしてその後、桜花賞には目もくれず、前走のNHKマイルCに挑戦した。

 そこから今度はまた、ダート重賞へ。いささか一貫性に欠けるローテーションには疑問が生じる。

 その点については、管理する武井亮調教師(美浦)を直撃してみた。すると、武井調教師は「厩舎としては(リエノテソーロは)一貫してダート向き。そして、マイルくらいまでがベストの馬だと考えています」と語った。そのうえで、ここまではオーナーの要望に応えつつ、その時々で馬の調子や適性に合ったレースを選択。非常にシンプルな考えで導き出された臨戦過程であることを丁寧に説明してくれた。

「もともと(オーナーからの)要望は、馬体、血統等含めて、後々に繁殖にも使えるいい牝馬を選んでほしい、というものでした。それをふまえつつ、馬主を始めたばかりのオーナーですし(リエノテソーロが2世代目)、早くから結果を出せる馬のほうがいいだろうと私も考え、それなら2歳のダート短距離重賞であるエーデルワイス賞を勝てる馬を、とアメリカのセリで探して見つけたのが、リエノテソーロです。実は、同セリでは一番高く評価していた馬が他にいたんです。先日の(アメリカの三冠レースの最終戦)ベルモントSを勝ったタップリットです。でも、同馬は日本向きというタイプの馬ではなく、そもそも牡馬でしたので、歩き方が柔軟でありながら、前脚のさばきが力強かったリエノテソーロを選んだんです」

 オーナーの要望を超える形で、これまでしっかり結果を出してきた武井調教師。ベストの条件となるユニコーンSでは期待が持てる。今回も、人気どおりの結果を残してもおかしくない。



リエノテソーロと、同馬を管理する武井亮調教師。photo by Tsuchiya Masamitsu

 ところで、武井調教師の目にかなったリエノテソーロはどうやって成長してきたのか。その過程を少し振り返ってみたい。

 1歳の秋に来日してから、リエノテソーロは順調に調教が積まれてきた。その間、武井調教師も「ゲートの動きからして、ちょっとモノが違う」とかなりの手応えを感じていたという。

 ところが、デビュー戦のために北海道に輸送された際、思わぬアクシデントがリエノテソーロを襲った。武井調教師が説明する。

「向こうに着いたら、腸炎になりまして……。処置を間違えたら、命を落としかねないものでした。この馬は妙に頭がいいというか、センシティブなところがあって、環境が変わったり、普段と違うことがあったりして、それに納得できないと、ガタガタッと体に(症状が)出るんです」

 結局、予定していたレースには使えなかった。

 外国産馬のため、使えるレースは新馬戦でも限定される。目標であるエーデルワイス賞から逆算して、急きょ新馬からオープン特別のすずらん賞を連闘するプランが組まれた。デビュー2戦が芝だったのはそのためだ。

「『ダート向き』とは言いましたけど、芝でもこの新馬戦は勝てるかな、という自信はありました。次と、その次もあるので、ジョッキーにはあまり馬に負担をかけないよう指示しましたが、思っていた以上に楽勝でしたね」(武井調教師)

 デビュー戦、すずらん賞、さらにその後のダート重賞と、道中は2、3番手の好位から直線で抜け出すという危なげないレースで連勝。短距離馬で仕上がり早というと、スピード任せというイメージが強いが、リエノテソーロは違った。仕掛けられてからグッと重心を落として、回転の速いピッチ走法でゴールを前にして加速していくタイプだ。武井調教師が補足する。

「そこが、『この馬、天才だなぁ』と思うところ。騎手が”抑える馬”ではなく、騎手の指示を”待てる馬”なんですよ。だから、(道中も)抑えて控えているのではなく、無理なく待っているので、最後の加速につながるわけです。その加速も、他の馬が2歩進む間に3歩進めるスピードがあります」

 それにしても、そこまでの能力があったら、桜花賞に出走してもよかったように思うのだが……。その疑問について、武井調教師はこう説明した。

「軽いソエが出たのと、実はアネモネSのあと、また腹痛を起こしてしまったんです。4着に負けて、初めてレース後に検体採取(レースの1~3着馬および指定された馬が行なうもの)をされずに帰ってきたものだから、そんな、これまでと違うことにどうも納得できなかったようなんです(苦笑)」

 NHKマイルCでは、環境の変化に備えて木曜日に東京競馬場入り。それが功を奏して2着となった。もちろん、レース後には検体採取もあって、その後は納得できた様子で体調に問題はないという。

 そして今回も、木曜日に輸送して万全を期す。

「(6月14日に開催された3歳牝馬限定の地方交流重賞の)関東オークス(川崎・ダート2100m)出走も考えました。(出走しなかったのは)距離うんぬんではありません。(リエノテソーロの)力が抜けているので、十分勝負になったと思います。それよりも、この馬は将来的にはGIフェブラリーS(東京・ダート1600m)を勝てる馬だと思っています。そこで、東京・ダート1600mの重賞を経験しておきたかったんです。

 そうすると、ユニコーンSのあと、同条件で行なわれるのは秋のGIII武蔵野Sしかなくて、そこでいきなり古馬牡馬とぶつかるのは厳しいかな、と。可能なら、秋にはJBCスプリント(大井・ダート1200m)出走も考えているので、今回はユニコーンSを使ったほうがいいと判断しました」

 先々の大いなる野望を口にした武井調教師。「ベストはマイルまでと思っているとはいえ、距離は未知数なんですよね」といたずらっぽい笑顔を見せ、今回いい内容で走れば、距離を伸ばして3歳馬のダート頂上決戦となる地方交流重賞ジャパンダートダービー(7月12日/大井・ダート2000m)出走の可能性も示唆した。

「3歳世代では、エピカリスとうちの馬がダートではトップですから。エピカリスがいないここでは、きっちり格好をつけないと」

 36歳の気鋭の伯楽は、さわやかな笑みを浮かべた。だが、その眼差しからは強い意志が感じられた。ダート界に新たな「女傑」がまもなく誕生するかもしれない。