広田有紀(ひろた・ゆうき)。1995年5月20日生まれ、新潟市出身。新潟高では女子800メートル走で2年時に国体、3年でインターハイ優勝。秋田大医学部に進み、16、18年日本選手権4位、19年のインカレ2位。20年から新潟アルビレックスRCに所属。

過酷なレースが繰り広げられ、「トラックの格闘技」とも評される女子800メートル走でインターハイ優勝など数々の結果を残してきた広田有紀選手(新潟アルビレックスRC)は、医師免許を持つランナーだ。

陸上選手として高校時代から華々しい活躍を見せてきた一方で、秋田大学医学部に現役合格、医師免許を取得し、まさに”文武両道”を体現してきた。陸上選手と医師、二つの顔を持つ彼女の過ごしてきた学生時代はどのような時間だったのか。そのストーリーに迫った。

目標を掲げて挑んだ二足の草鞋

新潟市で生まれ育った広田選手は、幼少期から走るのが大好きだった。中学校では陸上部に入部し、本格的に800メートル走のトレーニングを開始。地元の新潟高校に進学すると、2012年のインターハイで2年生ながら女子800メートル走で3位に入賞し、さらに翌年には同競技で悲願の優勝を果たした。しかし、広田選手は大きな目標を掲げていた。「高校2年生で3位をとったので、1位を目指すことと、当時の高校記録のタイムを切ることの二つの目標を目指した一年でした。しかし、12月に怪我をして5月まで走れず、1位をとれましたが、高校記録は達成できず、不甲斐ない気持ちがありました」と振り返る。

目標を持って取り組むのは勉強でも同様だった。眼科の開業医である母の影響から、物心ついた頃には医師を目指していた。進学した新潟高校は県内でもトップクラスの進学校だが、それでも広田選手が”二足の草鞋(わらじ)”を諦めなかったのは、突き詰めて努力することの大切さを知っていたことと、新潟高校の校風によるものだ。「自分がなるのは母のような姿だと思って中高生時代を過ごしてきたので、あまり他の職業を考えたことはありませんでした。もし陸上でスランプや辛いことが起きた時でも、幼少期から目指してきた夢なら突き詰められるのではないかとも考えて進路を決めました。中学時代は陸上の片手間で勉強をしていましたが、自主自律を重んじる高校の校風もあって、自分で必要な科目を選んで、意思を持って勉強するようになりました」。

毎日の授業を必死に理解し、それでも噛み砕けない部分は休み時間や放課後に直接先生に質問した。席替えがあれば、自ら志願して教卓の前の席を選んだ。2年生からは塾にも通い、部活の後はすぐに自習室や塾の授業で昼間の学習を補強し、帰ったらお風呂に入って寝るだけのような生活サイクルで一日一日の勉強をその日のうちに完結させた。

部活をしながら作った勉強の土台は、受験直前期でも大きな自信として広田選手を支え、見事秋田大学医学部の現役合格を勝ち取った。「あんなに熱くガムシャラにやった3年間はもうこれ以上ないなと思っています」と語る。高い目標を自分で設定し挑戦することが、広田選手自身の成長を促してきた。

2013年大分インターハイにて、女子800メートルで優勝を飾った

同級生と励まし合って乗り越えた医学部の6年間

大学に進学した広田選手は、陸上競技を趣味として続ける範囲でしか考えていなかったが、1年生で出場した大会で高校時代から大幅にタイムを落としたことで、両立を目指して努力してきた高校時代の気持ちが目を覚ました。「『(高校時代のタイムと)こんなに違うものなのか』と思った時にインターハイでの熱い記憶が蘇ってきて、再びあの緊張感や高揚感、試合後の満足感を味わいたい!と、大学でもトップレベルを目指し始めました」。

医学部は当然普段の授業や実習も避けては通れないが、それでも逃げることはしなかった。「大学の同級生たちと励まし合いながら乗り越えました。秋田大学医学部陸上部は大学から陸上競技を始めた人が多く、純粋に走ることを楽しむ人が多かったので、幼少期から走ることが好きだった私にとって原点回帰する感覚がありました。義務感で競技を続けるのではなくて、仲間たちとモチベーションを高めることで、どうにか大学6年間やってこられたのだと思います」と話す。

2020年4月には大学在学中ながら現在所属する新潟アルビレックスRCに入団し、医師免許も取得した。逆境でも目標を持って取り組み、仲間たちと高め合っていく。陸上競技で身につけた姿勢が、広田選手の大きな原動力となった。

来年度からは2年の研修医としての生活をスタートさせるが、今後も陸上競技のトレーニングは続け、両立を目指すという。自身の理想の医師像について尋ねると「スポーツに関わる人たちとたくさんコミュニケーションをとってきた経験を生かして、病気やけがを抱える背景をきちんと知った上で、患者に寄り添える医師になりたいです」と力強く語ってくれた。

 最後に広田選手にとってのインターハイを表現してもらった。「一番心を成長させるものですね。今の高校生たちはコロナの影響を大きく経験した世代だと思うので、精神的にも環境的にも制限された中でようやくたどり着いた大舞台だからこそ、大会をとにかく楽しんでほしいです」。部活も勉強も全力で走り切った3年間とインターハイの経験が、これからの広田選手の人生の追い風となるだろう。

読売中高生新聞を読んだ広田選手の感想

「中高生の頃の自身を振り返ると、”新聞”を読むことのハードルが高かったように思います。活字がずらっと並び、難しい用語、書き方で国内外の社会情勢の記事が並んでいるイメージ。

 今回読ませていただいたこの”読売中高生新聞”は開いた瞬間から”見やすい”という印象を受けました。カラフルで写真の掲載も多く、中高生の興味をそそる見出しが新聞の表紙にわかりやすく目次形式で書かれていました。

記事の内容も社会情勢だけでなく、学校では教わることがない”休養の仕方”や”体のコンディショニング”についての連載[橘 薫1] (『中野ジェームズ修一の間違いだらけの部活トレ』毎月第一金曜掲載中)があることも印象的でした。アスリートとして怪我なく競技を続けていくために重要な情報だと感じました。総じて中高生の皆さんの興味関心に焦点を当てた記事が多いため、活字に触れることも自然と習慣化され、文章読解力向上にもつながると思います。

部活も勉強も頑張る中高生の皆さんに、そして当時の私のように新聞を読むことにハードルが高く感じる方にもおすすめしたいです」。