これほど「男の涙」が繰り返された1週間があっただろうか――。それも魂を込めて戦うピッチ上ではなく、記者会見の席で。

 今季限りでスパイクを脱ぐ阿部勇樹、今季限りで契約満了となり、退団が決まった槙野智章、宇賀神友弥。そしてクラブが下した「苦渋の決断」の一端を担ったリカルド・ロドリゲス監督。11月14日から21日に至るまで涙の会見の連続に心をかき乱された赤きサポーターは少なくなかったはずだ。だがこのドラスティックさこそ、浦和レッズの本気。来季に懸ける覚悟と責任が見えてくる。

 2022年は浦和にとって、ただの1年ではない。「3カ年計画」の3年目。ビッグクラブの宿命として絶対的な結果が求められる。19年12月、浦和はフロントの強化体制の一新と共に新たな指針を打ち立てた。

 それが「20年は変革元年、21年がコンセプトの表現、22年がリーグ制覇」という3カ年計画。以来、西野努テクニカルダイレクターは常に22年の布陣を念頭に動いてきた。年間を通じ、積極的な補強を見せた今季も一貫して「3年で結果を出す、そこは変えない」と話しており、集大成の1年となる。

 大胆な選手の入れ替えに伴い、補強ポイントも見えてくる。まず槙野、宇賀神、さらにトーマス・デンという計算できる実力者が抜けるセンターバック、サイドバックの補完。前線もキャスパー・ユンカー、興梠慎三に加え、ボールが収まる強烈なアタッカーは加えたいところだ。

 今季は支配率に比べると得点力が今ひとつ。水面下では決定力あるウイングの獲得の動きも見える。さらにボランチも補強ポイントか。柴戸海、伊藤敦樹、平野佑一ら一定の選手層を持つポジションだが、比較的、同タイプで守備に力強い選手が多い。

 ロドリゲス監督が「例えば徳島の岩尾憲のようなチームのブレーンになるようなタイプ」と話すのは平野のみ。来季は安居海斗(流通経大)も加入するが、リーグ制覇を見据えれば、パスを供給し、得点も取れるボランチも重要になりそうだ。


 計画「2年目」の21年はすでにシーズン終盤に入った。レオナルド、橋岡大樹、柏木陽介らが退団した開幕当初は不安しかなかったが、4月にユンカーが加入し、空気は一変した。

 6月には酒井宏樹、江坂任、アレクサンダー・ショルツとビッグネームの獲得が続いた。西野TDによれば、強化部では非現実的な選手も含め「こんな選手が獲れたらいいねリスト」を作成し、随時、動向をチェック。

 またシーズン中も他クラブの情報を得るため、国内スカウトを増員した。この一連の「網」は新たな浦和の強みになっている。だからこそシーズン中にもかかわらず、柏レイソルの主力だった江坂の獲得にも成功した。来季に向けてもJ2から有望な若手の「個人昇格」を含め、幅広くリストアップしている。

 ニューリーダーの台頭も待たれる。退団が発表された翌日、槙野は首の痛みを訴え、別メニューとなった。ピッチ脇で練習を見ながら思わず「心配だな」と漏らした。阿部や槙野が抜けたチームを誰がけん引していくのか。その思いはロドリゲス監督も同じ。「リーダーはピッチ内の監督。勝者のメンタルを持つ人間が担うべき。今後のチーム作りで意識したい」と話した。

 一方で宇賀神はクラブハウスの風呂場で一緒になった関根貴大に「もうレッズの一時代を築いた選手達と一緒にプレーした選手はお前しかいない。お前がやらなきゃ」と伝えた。関根は照れ臭そうに笑ったというが、11月20日の横浜F・マリノス戦では決勝点に絡むなど気持ちの入ったプレーで早速、期待に応えてくれた。

 阿部が引退の決意を固め始めたのは40歳の誕生日を迎えた9月初旬だった。槙野は11月5日に今季限りでの契約満了を伝えられ「まさか、自分が……」と絶句した。その1週間後、宇賀神もフロントから「来季、優勝を目指すうえで戦力としては考えられない」と非情通告を受けた。

 レッズを愛し、長くクラブの顔として活躍して来た3選手との別れは世代交代の一言では簡単に片付けられないほどの「変革」を予感させる。クラブとしても覚悟して挑む「3カ年計画」の3年目、そこには涙にくれた一週間の真意がある。

文●牧野真治(スポーツニッポン新聞社)

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